テンダーさんの「その辺のもので生きる」オンライン講座(2021年2月-2023年3月)の報告書のうち、講師のテンダーさんによる総括を掲載します。
その他のページも随時公開予定です。
講師テンダーの総括
この講座を企画するにあたり、最も大事にしたことは「リアリティ」です。
逆に言うと、「昨今はリアリティのない講座ばかりが目につくな」と私が思っているからです。
例えばSDGsの講座をして「環境って大事だね」とみんなで感想を言い合ったり、
平和学習で戦争を扱い「命って大事だと思いました」とまとめる。
それは私が思うに「さざなみを拾いに行く状態」、
つまり池に石を投げ込んだら波紋が立つのは当たり前なのに、波紋が立ったことを成果としていちいち『発見』する状態・もしくはノリ、だということです。
そんなことをしていたら、有限の時間の中では本質まで当然辿りつかないので、まともな授業や講座は成立しないと思うんですけど(もっと言うと、環境も命も社会合意として持てるくらいは大事なことだから学習のテーマに選ばれていて、つまり授業や講座の題材選定の段階ですでに内在している通念であるのだから、それを結論としてもう一度持ち出すのがおかしい。あらすじから書き始める読書感想文と同質)、
昨今では「誰にとってもわかりやすい」のと、
「複雑で理解し難い現実は敬遠したい」ので、広く現場では愛される切り口のようですね。
して、仮にその切り口を使ったとしても、
「命って大事だと思いました」と言われたときに、居合わせる先生や講師が
「ではなぜその大事なものを蹂躙したり、奪ったりする行為が世界中で発生するのか?」と質問をすれば、お互いに次の扉を開けられると思うのですが、どうもそうならないようです。
なぜか?
先生や講師が、環境問題が死活問題であることや、戦争が何をもたらすかにリアリティを持っていないからだと私は思います。
もう少し言うと、不正義がまかり通っていることや自分自身が蹂躙されることに気づいておらず、怒っていないからです。
だから言える。「大事ですね」と。
その辺のもので生きるオンライン講座では、具体的には取り上げた技術のネガティブな面や不都合についてもほぼ必ず触れました。
講座の目的は、参加者さんを盲信させる(ファンタジーに溺らせる)ことではなく、リアリティに直面してもらうことだからです。
そして、リアリティは「もの」に付随します。
例えば、鉄は熱せれば柔らかくなるんだよ、と聞きかじりをしゃべることはちっちゃい子でもできる。
でもいざ自分でやってみて、鉄が柔らかくなっている時間の短さ、柔らかいなりの硬さ、加工時間の短さと熱線による暑さ、危険度に焦るから思ったように変形させられない道理などを体験してみて、初めてやった感想は
「なんとか曲げられた・・・! (けど思ってたのと全然違う。。めっちゃ心臓ドキドキしてる・・・!)」
くらいの感じになるのが、「もの」に付随するリアリティだと私は思います。
その体験をひとつもしないで、知識の授受、技術の授受と言えるのか?
私は言えないと思います。
そして、なぜリアリティが重要なのかをはっきり言えば、
すでに多くの人が、テレビやネットやゲーム、本や映画や漫画による情報入手により、ありもしないファンタジーによって世界観を構築していて、それが生存に差し支えるほど問題を生んでいるから、です。
それは、魔法があるとか伝説の剣があるとかそういう極端なことではなく、非常に微妙に、滑らかに常識を改竄しているように私からは見えます。
例えば、多くのメディアで「敵をうちのめすシーン」がハイライトです。
極めて多くのメディアで、思想の異なる相手を暴力的に打ちのめすのがハイライトである。このことに異論のある人はいないでしょう。
でも、現実はそうではない。
打ちのめした相手から反撃もされるし、訴訟もされるし、もっと恐ろしいことが起こるかもしれない。打ちのめしても、現実では物語は終わらないので。
もしくは、汚染が進み資源も枯渇する地球を人類はテクノロジーで回復させたり、脱出したりできる。そんな話、聞いたことありますよね。
でも、やはり現実はそうではない。
80年も前から始めた原発の閉じ方、やめ方、後処理方法をいまだに私たちは知らない。
地下資源もどんどん消費し、銅はすでにほぼなくなり、とうとう2050年までに鉄すら無くなるのでは、という試算まで現れました。(鉄は地球上に4番目に多い元素です)
「まあ、テクノロジーの進歩でなんとかなるだろう」と、思ってませんでしたか?
現実を見るに、テクノロジーの進歩では問題は解決せずに、一層地球上の消費を加速させるように私には見えるし、
たくさん勉強したはずなのに後先考えず、敵を打ちのめす興奮に抗えない人たちがたくさんいるように私には見えます。
私の言っている常識の改竄はそういう微妙なポイントです。
だから、リアリティを持って現実を見るのであれば、
「テクノロジー進歩の博打に星の命運を賭けるよりも、使う分を減らすほうが合理的だろうな」と考えられたり、
「相手を打ちのめしたらそれ以上に大変なことがその後に起こる確率が高いので、まずはそうならないために他の方法を考えよう」といったような、
ファンタジーを脱出するためにリアリティが必要だと思うのです。
ひいては物事を、メディアのように単純化しないために。
まあ、それはそれとして。
この講座を始めるにあたり、2020年12月の私は、以下のように講座の船出を宣言しました。
どんな未来が来ようとも「異なる意見や文化の人とも協力しあえること」を信じ、他の人が見向きもしない「その辺のもので生きる」ことができれば、希望を失うことはない。約束する。
この宣言から3年半が経った2024年。
イスラエルからの、抜き差しならないパレスチナ蹂躙を前に、私はこの宣言の脆さを見つめています。
圧倒的な暴力、他者性、非対等な態度が、人の持つ「信じる」という営み・祈りを踏みにじる。
2020年代の地球で「祈りを破壊し、その辺のものすら手に取らせない」まで人が人を追い詰めると、私はまるで想像していませんでした。
それはもはや、国土や資源を奪うことが目的ではなく、相手を再起不能にし、絶望させ、根絶やしにすることが目的であると私は思う。
そんな現実を前に、甘かろうが私は、
「人は人を信じられるし、誰かの言いなりになったり服従しなくても、その辺のもので生きていける」と言いたい。
だって、言わなければ始められないのだから。
渦中に近ければ近いほど、受け入れ難いたわごとに聞こえるでしょう。お前はこの惨状を前に何を見ているんだと。
瞬間 / 点で捉えれば、人は信じ合えないし、希望を持つことを許さぬ蹂躙が、今この瞬間にも起き続けている。
でも、そうではなかった時間、人が人を信じ、その辺のもので生き抜いた時間も人類にはたくさんあるという記憶を、戦火の苛烈さに消し飛ばされる必要はない、と私は思うのです。
たとえ、受け入れ難い瞬間が私たちにあったとしても、そうじゃない時間をこれから増やすこともできる。
そのために、この連続講座は比するもののないほどに意味があったと、私は今なお思っています。
私たちは、とても長い時間軸と視野を持って、分かち合い続けることができる。
そのためには、やり方を学ぶ必要がある。
連鎖を断ち切るために、従順さから抜け出すために。
「爆弾を落としに行ってこい」と命令された人が、
「ドローンを飛ばせ」と命令された人が、
「私はそれをしません」と言い続けている限り、戦争は起きないのです。
その初めの一歩は、甘さからしか出発しない。
人が人を対等だと思う甘さが、だから奪わないという無防備さが、明確に今日の平和を作る。
「その端緒がこの講座にあった」と私はここに宣言し、この講座の総括とします。
そしてまた、この総括が次の船出の羅針盤でもあります。
私たちには、こどもたちに継承することがまだまだたくさんありますよね。
またご一緒しましょう。
テンダー
[執筆: テンダー]
[事業担当: 室中 直美]
このオンライン講座は、2021年2月から2023年3月まで実施しました。
▶︎ 講座の趣旨
・テンダーさんのメッセージ
・TJFのメッセージ
▶︎ 全講座を終えて
・参加者のみなさんへのインタビュー(PDF)
・講師テンダーさんの総括
・TJFのふりかえり(PDF)
・実施講座一覧(PDF)
▶︎ 全講座のスケジュール
▶︎ これまで実施した講座のレポート
– 第1回「アルミ缶を使い倒そう」
– 第2回「棒と板だけで火を起こそう」
– 第3回「3D設計と3Dプリントを覚えて、必要なものを作ろう」
– 第4回「雨水タンクを作って、水を自給自足しよう」
– 【前編】 第5回「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」(テンダーさん執筆)
– 【後編】 第5回「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」(テンダーさん執筆)
– 【前編】 第6回「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」
– 【後編】 第6回「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」
– 秋の特別編「その辺のもので生きるための心の作法 〜『正しさ』を越えて」 (テンダーさん執筆) new!
– 第7回「プラごみから必要なものを作る」
– 第8回「キッチンで鋳造を始めよう!」(テンダーさん執筆) new!
– 【前編】第9回「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさん執筆)
– 【後編】第9回「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさん執筆)
– 第10回「きみのためのエネルギー。 実用パラボラソーラークッカーを作って太陽熱で調理する」(テンダーさん執筆) new!
– 【前編】 第11回「交渉を学び、こころざしを護る」(テンダーさん執筆)
– 【後編】 第11回「交渉を学び、こころざしを護る」(テンダーさん執筆)
– 【前編】 第12回「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」(テンダーさん執筆)
– 【後編】第12回「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」(テンダーさん執筆)
– 第13回「当たり前を変えよう、大切なものを守ろう」(テンダーさん執筆) new!