高校生とロシア船に乗り込んだ、高校ロシア語教師の角谷昭美さん

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富山県立志貴野高校でロシア語を教える角谷昭美さん。

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"Здравствуйте!"(ズドゥラーストヴィッチェ:こんにちは!)

富山新港に停泊中のロシア貨物船に乗り込みながら、生徒がおそるおそる言った。
「ラ」はロシア語特有の巻き舌。
船員たちも笑顔で、"Здравствуйте!" と返してくれた。
このやりとりで、生徒たちの緊張は一気にほぐれた。

「舵を触ってみろ」と船長が言うが、生徒は怖くて触れない。
船長が舵を触ると、すぐさま機械室から電話がかかってくる。「今の警報は何だ?」
船長は「大丈夫、大丈夫。見せているだけだ」と答える。

富山新港からウラジオストックまでの航路がひかれている海図を見て、生徒から思わず大きな声が出る。「ちゃんと道があるんだ!」

生徒から船長に次から次へと質問が出る。志貴野高校から富山新港までのテンションとは大違いだ。
通訳する私を見て、「先生、汗が出ているよ」。私だって通訳でいっぱいいっぱいだったのだ。
船員相手に、練習してきた自己紹介をする生徒たち。

「通じましたか?」の問いに、「全部わかったよ」「先生がいいんだね」という返事。
私も思わず、心の中でガッツポーズ!

そして、お茶の時間。
手作りの大きなパイナップルケーキが運ばれてくる。大喜びの生徒。
余ったケーキをビニール袋に無造作に入れて、「持ってお帰り」と渡してくれた食事担当のおばちゃん。何ておおらかな(大雑把?)!

その日の朝に入港し、夕方には出港するというハードスケジュールの中の1時間ちょっとで、これほど温かいもてなしを受けるとは思わなかった。
生徒たちとロシアの距離が一気に近くなる。

客船ではなく貨物船だからいい!
仕事でずっと日本と関わっている人の素顔を見せたい。そう思って選んだ訪問先だ。
ロシア船は私には馴染みのある場所。

雑貨屋を営んでいた実家には、ロシア人客がじゅうたんを買いによくやってきた。
壁掛けとして、じゅうたんはお土産にぴったりだったのだそうだ。
母がトラックにじゅうたんをたくさん積んで港に運びに行くのによくついていった。
小学生だった私は、船に招き入れられて、ボルシチやロシアパンをごちそうになった。
でもロシア語がわからないから、お腹いっぱいでも、家に帰りたいときでも、ニコニコするしかない。
ロシア語が話せたら、どんなにいいだろう......。
これが、今の私の原点である。
「ロシア人に会いたい!」
生徒たちの声が私の背中を押した。
教室で学ぶロシア語は本当に通じるのか?
ロシア人はどんな人たちなのか?
生徒たちが肌で感じる機会をつくりたい。
高校から富山新港まで車で30分。この環境を活かさない手はない。
地元の海運会社を通じて実現した、今回のロシア船訪問。
やってみないと何も始まらない。ぶつかってみないとわからない。