初めて食べたあの味、忘れられないあの味......。そうした味の思い出をもっている人は多いと思います。そして、それはただおいしかった、まずかった、というだけでなく、そのときいっしょに食べた人や光景などを脳裏に蘇らせるのではないでしょうか。このコーナーでは、もう一度食べたい味(My Gochi/マイゴチ)と、それにまつわるエピソードをお届けします。
中高生時代を含め約10年、韓国に住んでいた帝塚山学院大学教授の古田富建さん。青春時代を送った韓国生活で出会ったGochiは......。
*...*...*...*...*...*...*...*...*...*...*...*...*...*
刺激、激痛、涙
*...*...*...*...*...*...*...*...*...*...*...*...*...*
韓国の料理のイメージは赤い。それは美しい程のつやのあるあの赤い唐辛子が入っているものが多いからというのは周知の事実であろう。しかし唐辛子は味覚ではなく刺激であるから、最初は「辛い、辛い」といって食べていたものもだんだんと慣れてくる。むしろ韓国のポピュラーな唐辛子はそこまで辛くなく、唐辛子の入っている代表的な料理であるキムチは味わい深い甘みさえ感じる。
韓国に人生の内10年近く住み、今でも年に数回仕事で通っている筆者でも慣れない唐辛子がある。それは韓国で最も辛いといわれる唐辛子、「青陽唐辛子(チョンニャンコチュ)」である。初めて食べたのは10代の若いころ、ミッパンチャン(常備菜)として出されたものであった。見た目は普通の青い小さめの唐辛子である。よくある唐辛子と小魚のミッパンチャンだと思い口に入れたとたん、激痛が走る。その味はもはや辛さを通り越し、辛さは感じず痛い。痛くてまともに味さえも分からない。目は自然と閉じ涙が出てくる。体中の毛穴が開き、冷や汗が出る。水をがぶ飲みしようが、ご飯を掻き込もうが後の祭りである。その場の意識や状況の記憶が薄れ平常心を保てない。ひたすら刺激が収まるのをじっと耐えるしかない。刺激が収まっても耳の奥の方にしばらく痛みが残る。本当に恐ろしい食べ物である(笑)。20代後半に再度長期留学した際、半ばパワハラ気味の指導教官の勧めで再チャレンジをした。全く辛さへの対応は進歩しておらずひたすら苦しみ悶えた。そんな青陽唐辛子が大好物だとバクバク食べる韓国人を見ると、日韓の食文化は他の文化に比べて近いという認識を疑いたくなる。あれからさらに10年が経った。再度あの辛さにチャレンジをして何とかリベンジをしたいものである。