写真家にして探検家・石川直樹さんは高校時代、海外を一人旅して世界の多様性に気づきました。その国の文化を生身で直接体験するとどのような視点を得られるのでしょう。
▼世界を全身で感じ、驚き続けて写真を撮りたい
高校2年生の夏、インドとネパールを旅しました。初めての海外、初めての一人旅です。ご飯を手で食べたり、トイレで紙を使わなかったり......、驚きの連続でした。世界はこんなに違うものなんだ、自分が正しいと思っていることはたくさんある常識のたったひとつでしかないんだということを身をもって知ったわけです。また、身振り手振りを交えながら、外国の人とコミュニケーションをとりながら旅をした初めての経験でもありました。教室で学んだ英語が役に立たないのです。試験のための英語ではだめで、もっと生きた英語を身につけないとだめだと思いました。
若い人は内向き志向といわれることがあるようですが、内向きというよりもテレビやインターネットで多くの情報が簡単に得られるようになって、知っているつもりになりすぎているように思います。実際に行ってみると、においや音、空気から全身で感じるんですよね。そうするとそれまで知っていたものとは全く違うことがわかって、素晴らしさもわかるんじゃないかなあ、と。ぼくは17歳のときにそのことを体験したので、幸か不幸か旅をする人生になってしまいましたけれど......。
旅をすればするほど、自分を相対化して、自分がいる位置も客観的に見えるようになります。マスメディアで報じられる情報では切り捨てられてしまうディテールが見えてくるようになるんです。そうするとニュースで報じられる事件の向こうに暮らす人たちの顔やその生活が浮かんできます。他人事ではなくて自分事として考えられるようになってくる。そうすることで、自分自身の「生」が濃密で豊かになり、日常がより潤ってくるのではないでしょうか。
ぼく自身はいつも驚いていたいと思っています。写真を撮るのには必要なことだからです。知らない場所に行って、自分の目で見て、耳で聞いて、身体全体で感じて、驚き続けていたいと思います。