2005年6月 大人になるってどういうこと? |
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今の私は大人なのでしょうか、それとも子供なのでしょうか。母は私に時々、「もう大人でしょう」という言葉と、「まだ子供でしょう」という言葉を使います。そんな時、私は心の中で、「あーあ、まったく都合よく使い分けてさあ…」とつぶやくのです。そこで私が、母にこの問いをぶつけたところ、母は次のように答えました。 「母さんが『もう大人でしょう』って言うのは、一緒に暮らしていて、当然すべき役割を果たさないとき。今の夏海ならそれくらいの分別がついていると思うから言うんだよ。それから『まだ子供でしょう』って言うのは、あなたが親の責任や保護のもとで生活しているのを自覚していない時。母さんはそんなふうに夏海に言っているつもりなんだけどな。」 私は納得できませんでした。そこで、ほかの母親にも聞いてみました。すると、私たちを子供だと思うのは、「自分の力で生活していなかったり、経済的に自立していなかったりすること」や「帰宅時間が遅く、安全管理ができていないこと」でした。特に前者の意見は、母の意見と一致すると思いました。後者の意見に関しては、「親がどんなに心配しているか知らないで」という考えと、「私服だと大人に見られて、身の回りに危険が多くなるのに、そのことに気がつかないなんて」という二つの面があるように思いました。 そして、母親が私たちに「もう大人でしょう」と感じる時は、「家の仕事をしようとしない時」と「自分で考えず、すぐに親を頼る時」が多数を占めました。 この結果、どの母親も17歳の娘に対して、同じような思いを抱いていることが分かりました。そして母が言葉を使い分けることに対して、納得してもいいかという気になりました。今の私たちの中には、「大人」の部分と「子供」の部分が混在しているということです。しかし、実際は経済的に自立していないし、20歳になっていないので、法的にも社会的にも、まだまだ子供です。 「大人」に必要な「責任」って?では、「大人」とはどういうことでしょうか。多くの母親が、大人になるということは、「経済的自立を果たし、責任ある行動を取ること」だと答えました。学校の先生方も、大人のイメージとして、「きちんとした人」「分別のある人」そして「自分の行動に責任を持つ人」を挙げていました。いろいろな人の意見を聞いた結果、見えてきたキーワードは「責任」です。 そこで「責任」について考えてみました。『広辞苑』には、「責任」とは「人が引き受けて為すべき任務」とあります。次に英語のresponsibilityを見てみました。「take care of something or someone(他者などに気を配ること)」「be trusted to do the right thing(正しいことをすると信頼されていること)」。私は、二つの単語に一つの共通点を発見しました。それは、「責任」は、他者の存在がなければ生まれてこないということです。「責任」という言葉の奥に、「他者性」が見てとれるのです。このことから私は、「責任」を「他人との関係があって初めて生まれる、互いを思う気持ち」と定義したいと思います。そして、「責任」の言葉にある他者性を生む人間関係は、互いの信頼の上に成り立つものだと考えます。信頼は他人を気遣ったり、認めることから生まれます。私たちは人間関係を育む時点ですでに、「責任」を持ち始めているのです。私は今まで、「責任」とは、自分の行動を自分で決定し、その結果を他人のせいにしないことだと考えていましたが、「責任」にはもっと奥深いものが含まれることが分かりました。 私は大人とは、経済的に自立していると同時に、自分を高めるために学びつづける人のことだと思っています。TPOにあわせた行動、立ち居振舞いや言葉の美しさといった内面の充実を感じさせる人のことです。すなわちこれは「他人に不快感を与えない」ということで、ここにも「責任」と共通する他者性を見てとることができます。私はますます、「責任」を持つ大人になることの難しさを感じています。 魅力的な大人の世界に今、私たちは、子どもから大人への橋を渡っている途中です。その中には、すんなりと渡れてしまう人、引き返そうとする人、あるいは、迷って身動きのとれない人もいるでしょう。今、ニートやフリーター、あるいはパラサイトシングルと呼ばれる若者の急増が社会で問題になっています。これは、橋の上で迷っている状態なのではないかと思うのです。そしてそれは、私たち子供側の努力不足、意欲のなさが原因なのかもしれません。しかしそれだけでしょうか。高校生の皆さん、あなたの側には憧れの対象や目標になるような大人がいますか。親や兄弟、先生、あるいは芸能人やスポーツ選手、誰でもいいんです。子供は、大人の背中を見て成長していくのです。迷っている若者が多いということは、「大人の世界」すなわち「責任」を伴う世界が魅力的に感じられないことも原因の一つではないでしょうか。 大人の皆さん、私たちに教えてください。大人になること、すなわち責任を持って生きていくことがどんなにやりがいのある生活であるかということを。あなた方の仲間入りをするのがどんなに素晴らしいことであるかを。夢や目標があってこそ、私たちの大人になりたいという思いは、強くなっていくのです。そのために、私たちが飛び込んでいく社会を、すばらしいものにして待っていてください。 大塚夏海
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