「ムーンライト・シャドウ」を教材とした読解授業
「小説を日本語で読んでみたいな」と思う学習者の夢をかなえるプランです。まだ十分に日本語の原著を読む実力のない中級学習者にもさまざまな補助手段によ
って一編の小説を読了し、達成感と自信を持たせることができます。クラスのみんなで楽しく吉本ばななワールドを体験してくださいね。
Category
- 言語
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- 日本語
- 対象
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- 大学生
- 活動タイプ
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- インタビュー
- プレゼンテーション
- リーディング
- 交流
- 作品制作
- 資料調査
- 鑑賞
- アウトプット
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- メールや手紙
- レポートや作文
- 語彙リスト
- 話題分野
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- からだと健康
- ことば
- 人とのつきあい
- 地域社会と世界
- 学校生活
- 日常生活
- 自分と身近な人びと
- 自然環境
- 行事
- 衣とファッション
- 買い物
- 趣味と遊び
- 食
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単元目標
(1)日本語で一編の小説を読み通すことができる(初めての経験)
(2)小説を読むことで、作者についての情報、小説の舞台となっている日本の時代背景、日本の伝統的な習慣や衣食住などの文化的な情報、宗教観(死生観)などの知識を得て、同様の知識を持った他者と知的な会話ができる。
(3)読書会に向けての準備を通して、日本的社交スキルを使って教室外の社会とつながることができる。
(4)学習の総括として、文学論的小論文かスピンオフ小説を書くことが出来る。
インタビュー
このプランは実践したものですか。
実践してみようと思ったものですか。
実現の可能性はありますか。
「ムーンライトシャドウ」を教材として授業を実践したのは過去に2回ありますが、その時はまだ「めやす」のことを知りませんでした。「めやす」のことを知ってから、このようなプランを書き直しました。書き直してからの実践はまだです。
どうしてこのプランを作ろうと思ったのですか。
発想の原点はなんですか 。
私が勤務先で対象としている学習者は主に非漢字文化圏出身の英語話者です。彼らにとっては中級に入ってから先が険しい道のりで、漢字と語彙の膨大さに阻まれて、なかなか本物の小説や記事などを楽しく読み通せたという経験が得られません。それで、そのステップを一気に乗り越える教材を作りたいと思い、このプランのもとになる教材を作りました。
実践してみて生徒の反応はどうですか。
実践していない場合、生徒のどんな反応が予想され、または期待していますか。
めやす型プラン以前の経験ですが、過去1回目の実践は完全に失敗しました。敗因は実践するタイミングを誤ったことからです。2回目の実践では同じ失敗はしなかったつもりですが、相手が「協力的な優等生たち」ではなかったため、最小限の実践にとどめざるを得ませんでした。それでも、その彼らから提出された最後の課題レポートを見ると、彼らなりに楽しくストーリーを味わい、考えも深めていたことがわかりました。これは正直、意外でしたし、嬉しかったです。
このプランに対する自己評価を教えて下さい。
また、学習のめやすを取り入れた授業を試みるにあたって、どんな課題や効果があると思いますか。
原案になる教材を作ったのは「めやす」以前の2009年のことで、まったく手探り状態でした。ですので、理論武装をしていない弱さもありましたが、思いつくままに活動を広げてみました。考えていくことは本当に楽しかったです。2015年に手直ししてもう一度使いましたが、その時も「めやす」は知りませんでした。その翌年に「めやす」に出会い、自分がデザインした読解授業の意義はこういうところにあったんだと、やっと明確に認識できました。未熟なプランに後から理論づけを施して「めやす」型プランとして再構築したわけです。これでやっと一人前になれました。
「めやす」的授業実践には、暗記が苦手だったり語学学習のセンスが今一つな学習者でも自分の持ち味を生かすことのできる救済効果があると思います。一方、課題としては、私が勤務先で相手にしている学習者がたまたまその傾向が強いのかもしれませんが、学習者というのは案外保守的で、従来通りのきちんとした教科書のある授業で着実にいい成績をとっていくことが「勉強」だと思っている人が多く、その固定観念を払拭することはとても難しいと思っています。「めやす」的授業のようなやり方だと却って不安になったり、無駄なことをやらされている感を持ってしまったりするようなので、そこをどううまく誘導するか、とても気を遣います。
同業者仲間に向けて、ワンポイントアドバイスや感想を一言お願いします。
このプランの場合、授業自体は小説のストーリーに沿って自然に流れていきますので、いったん始められたら安心して進めていっていただけると思います。
ただ、このプランの実践を成功させるには、学習者の好み(やりたいと思うこと)をよく把握しておくことと、実施するタイミングをよく見極めること、この2点には細心の注意を払われた方がいいと思います。学習者の中には「小説」というだけで拒絶反応を起こす人もいます。そんな人の過剰な反応でクラスの雰囲気が固まってしまったら、このプランを実践することが無理になってしまいます。また、コース全体のカリキュラムの中のどの時点でこのプランを使うかも慎重に見極める必要があります。もし、コースの途中でこのプランを使い、そのあと、まだコースが続くのであれば、このプランのあとにどんなことをさせるか? 私自身の過去の実践においても、その決定は難しかったし、成功したとは言えませんでした。
執筆者
甲南大学国際交流センター日本語特任講師。担当言語は日本語